12億円ほしい人のブログ

メガBIG当たらないかな

(+)-Ineleganolide の全合成

B.M.Stoltz先生らによる(+)-Ineleganolideの全合成。

chemrxiv.org

構造1
構造2

多くのチームが合成研究を行っていますが、まだWood先生らによる1報のみだそうで、難しい化合物です。
今回、Stoltz先生らは、2つのユニットをがっちゃんこして中央の7員環を終盤に構築する戦略で全合成を達成されました。

不安定なβ-keto tetrahydrofuranユニットの合成

直鎖の出発物から既知ルートでまずシクロペンテンを構築。
続いて側鎖のアルデヒドを1炭素増炭したエポキシドへと変換後、
ヨウ化マグネシウムでエポキシドを開環して末端をヨウ素
→分子内の水酸基からSN2でテトラヒドロフラン環を構築。

エポキシドの開環で生じた水酸基を保護しないと、直後のSN2はうまくいかなかったとのことです。
無保護のままだと、再度エポキシド化や水酸基同士で金属を介してキレートしてしまったりしたのでしょうか。

また、最後にエノンγ位の水酸基の脱シリル化を行っていますが、このエノンはMichael反応の求電子剤として反応性が高いようで、HF以外の条件はうまくいかなかったとのことです。
エノンの反応性が高いということは、本ルートの狙いに合致しているということでもあるかなと思います。

ユニットの合体

上で合成したユニットと、既知ルートから合成したシクロヘキセノンをエステル化により合体。
ユニットそれぞれの反応性の高さから通常のエステル化ではデコンプしてしまったそうです。 そこで以下論文を参考にエステル化を行っています。

https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.171988

ラクトンの構築

Michael反応とAldol反応により、天然物の5員環ラクトンと3つの不斉点を構築。
立体化学を完璧にコントールされている、素晴らしいルートですね。
Aldol反応でのシクロヘキセン構築は想定していない反応だったそうです。
ここから全合成に向けて、7員環への環拡大を行います。

5位の酸化

環拡大に向けては、ケトンのγ位である5位の酸化段階を上げる必要があります。
著者らは、ヨウ化サマリウム還元の生成物であるエノンが、塩基性条件下で空気酸化を受け、γ位がヒドロキシ化されたα, β-エポキシケトンへと変換されることを見出しました。
γ位のラジカルが安定であるため、予想外の本反応が進行したと推測されています。
よく見出されたと思います。

環拡大

γ位の水酸基をアセチル化後、再びヨウ化サマリウムを作用させることで、エポキシドの還元的開環と、セミピナコール型転位反応が進行し、Ineleganolideの全合成を達成。

想定外の反応をうまく活用しながら、複雑骨格をきれいに合成した素晴らしい成果でした。