Illisimonin A の全合成
ドイツ ハノーファー大学のKalesse先生らによる、Illisimonin Aの全合成。
Asymmetric Total Synthesis of Illisimonin A
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.3c01262
5員環がもりもりです。
Illisimonin Aに含まれるスピロ環構築を基軸とする戦略により、全合成を達成されました。
増炭1
Ni触媒を用いたHydrocyanationにより、末端アルキンを1, 1-2置換アルケンへと変換
反応はマルコフニコフ則に従うようです。
ニトリルをアルデヒドへ還元後、isopropenyl lithiumを1, 2-付加させて鍵反応の基質を調製
スピロ環構築
著者らが開発した、ホウ素をルイス酸としたtandem-Nazarov/ene反応により、直鎖からスピロ環を構築
立体化学は、基質の持つ水酸基によりコントロールされるとのことです。
なお生成物はβ-ヒドロキシケトンであるため、逆アルドール反応が進行してしまいます。
そのため、系中で水酸基をTES保護しています。
増炭2
ケトンα位を酸素で酸化して導入した水酸基を、chloromethyl silylエーテル化
強塩基を作用させることで、シリル横の炭素にてアニオンが生じ、それがケトンへ1,2-付加
鍵反応で生成したケトンですが、1,2-付加などの通常の増炭反応ではデコンプしてしまったそうです。
そこで筆者らは、ケトンのα位に導入した水酸基をテザーとして利用して分子内での1,2-付加を実現しています。
おもしろい戦略ですね。
Siの除去
MeMgClを用いてSiに求核攻撃することで、Si-O結合を開裂し、続いて、フリーの水酸基からのSn2反応によりTMSエポキシドへと変換
反応条件によってはオキセタンや塩素が残ったchlorohydrinがとれてくるみたいで、検討されています。
7位の酸化
常法に従いTMSエポキシドを開環(反応機構がよくわからないです。)
アリル位である7位の酸化には、BaranらがTaxolの合成で使用した5価クロム試薬にて実施
5位と7位の結合形成
末端アルケンをエポキシ化後、Ti(Ⅲ)を用いた還元的エポキシド開環反応→生じたラジカルがケトンとカップリングすることで、所望の結合を形成
筆者らは、Fe(acac)3, PhSiH3によるmetal-hydride hydrogen atom transferによるアルケンとケトンのカップリングも検討されています。
アルケンにラジカル発生→他の官能基と反応して炭素-炭素結合形成は、非常に有用なので自然につきたい手法です。
官能基化オレフィンのクロスカップリング | Chem-Station (ケムステ)
骨格完成
シクロヘキセンのアルケンをエポキシ化後、ルイス酸を作用させることでセミピナコール転位を行い、必要な炭素骨格の構築を完了
6位の立体化学もコントロール
その後、先行研究に従い、ヘミアセタールやラクトンを形成して全合成を完了しています。
炭素-炭素結合形成が勉強になる、おもしろい合成でした。