12億円ほしい人のブログ

メガBIG当たらないかな

Casbane類の網羅的全合成

 

こんにちは、ハシモトです

 

今回は、ドイツ マックスプランク研究所のAlois Fürstner先生により報告された、
Casbane類の全合成についての紹介です。 

 

"Collective Total Synthesis of Casbane Diterpenes: One Strategy, Multiple Targets"

Angew.Chem.Int.Ed. 2021,60,5316

URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202015243

 

f:id:hashimoto319:20210326184118p:plain

 

Casbane類について

トウダイグサやサンゴから単離・構造決定されました。
Casbeneとその類縁体には、以下の特徴があります。
 ・ビシクロ[12.1.0]ペンタデカン骨格
 ・立体化学や酸化段階の異なる類縁体が100種類以上存在

 

特に類縁体の構造は多様です。

それらを網羅的に合成したい場合、
 シクロプロパンの立体化学(cis体、trans体、及びそれらのエナンチオマー)
 5位及び18位の酸化段階
をどう作り分けていくかがポイントになります。

 

Casbane類の全合成は5例報告されていますが、以下の点で課題があるそうです。
 ・環化反応での低収率
 ・官能基の変換における異性体の副生
 ・2重結合の異性化

上記の課題を解決しつつ、類縁体の網羅的な合成を目標に研究を実施されました。

 

合成                      

 全体のルートは次の通りです。

 

f:id:hashimoto319:20210323192336p:plain

 

特に面白いのは上の通り、アルキンメタセシスとアルキンの変換ですね。

 

経路を詳細に見ていきます。

~シクロプロパンユニットの合成

f:id:hashimoto319:20210324195201p:plain

 ・シクロプロパンは、ロジウムを用いることでジアゾ化合物より立体選択的に構築
 ・ラクトンはDIBAL還元と続くWittig反応により開環
  (この化合物だとちゃんと開くんですね。)
 ・定法によりアルキンへと変換し、ユニットAを合成

また、中間体のアルデヒドにて異性化することにより、trans体のシクロプロパンBも調製しています。

 

~2つの炭素鎖ユニットの合成

f:id:hashimoto319:20210325094130p:plain

オレフィンに結合したシリル基をヨウ素へ変換する反応は、Ian Flemingら及びArmen Zakarianらの手法を利用しています。有用ですね。

 

~ユニットのカップリング 

f:id:hashimoto319:20210325131733p:plain

根岸クロスカップリング及び鈴木・宮浦クロスカップリングにより、3つのユニットからFを合成しています。

またここでもシリル基→ヨウ素への変換を行っていますが、

 ・HFIPに対する溶解性アップのため、水酸基の脱保護が先に必要
 ・酢酸を添加することで、副反応のiodoetherificationの抑制に成功

と検討が必要だったと述べられています。

 

~メタセシスとアルキンの変換

f:id:hashimoto319:20210325185725p:plain

 両反応とも、Fürstner先生が精力的に研究されているもので、その成果を発揮されています。

 1.アルキンメタセシス

   アルキンでのメタセシス反応にて、シラノールリガンドを添加することで
   反応性及び官能基許容性が飛躍的に向上するそうです。
   (詳細についてはまた別の記事にて紹介したいと思います。
   気になる方は以下もご参照ください。)

" “Canopy Catalysts” for Alkyne Metathesis: Molybdenum Alkylidyne Complexes with a Tripodal Ligand Framework "

J. Am. Chem. Soc. 2020,14,11279

URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c04742

    またここでエナンチオマーの分離もできるそうです。

 

 2.trans-Hydrostannation

   プロパルギルアルコールに対して、ロジウム触媒存在下スズヒドリドを
   作用させることで、trans のアルケニルスズへと変換しています。
   このヒドロメタル化ではスズの他に Si や Ge も可能であり、また trans- や
   gem- の水素化もできるということで、有用な反応です。

   詳細は以下もご参照ください。

"Research Report 2017-2019"

URL:https://www.kofo.mpg.de/en/research/organometallic-chemistry

 上記2反応、アルキンメタセシス → trans-Hydrometalation によりFürstner先生は様々な天然物を全合成されています。

 

~天然物への変換

 

f:id:hashimoto319:20210326203141p:plain

 

アルケニルスズ G 及び 同様に調製した立体化学の異なる H より、増炭と酸化段階の調整を行い3つの天然物の全合成を達成しています。18位の酸化段階を選択した合成が可能となっています。

以上、Fürstner先生によるCasbane類の全合成でした。