Casbane類の網羅的全合成
こんにちは、ハシモトです
今回は、ドイツ マックスプランク研究所のAlois Fürstner先生により報告された、
Casbane類の全合成についての紹介です。
"Collective Total Synthesis of Casbane Diterpenes: One Strategy, Multiple Targets"
Angew.Chem.Int.Ed. 2021,60,5316
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202015243
Casbane類について
トウダイグサやサンゴから単離・構造決定されました。
Casbeneとその類縁体には、以下の特徴があります。
・ビシクロ[12.1.0]ペンタデカン骨格
・立体化学や酸化段階の異なる類縁体が100種類以上存在
特に類縁体の構造は多様です。
それらを網羅的に合成したい場合、
シクロプロパンの立体化学(cis体、trans体、及びそれらのエナンチオマー)
5位及び18位の酸化段階
をどう作り分けていくかがポイントになります。
Casbane類の全合成は5例報告されていますが、以下の点で課題があるそうです。
・環化反応での低収率
・官能基の変換における異性体の副生
・2重結合の異性化
上記の課題を解決しつつ、類縁体の網羅的な合成を目標に研究を実施されました。
合成
全体のルートは次の通りです。
特に面白いのは上の通り、アルキンメタセシスとアルキンの変換ですね。
経路を詳細に見ていきます。
~シクロプロパンユニットの合成
・シクロプロパンは、ロジウムを用いることでジアゾ化合物より立体選択的に構築
・ラクトンはDIBAL還元と続くWittig反応により開環
(この化合物だとちゃんと開くんですね。)
・定法によりアルキンへと変換し、ユニットAを合成
また、中間体のアルデヒドにて異性化することにより、trans体のシクロプロパンBも調製しています。
~2つの炭素鎖ユニットの合成
オレフィンに結合したシリル基をヨウ素へ変換する反応は、Ian Flemingら及びArmen Zakarianらの手法を利用しています。有用ですね。
~ユニットのカップリング
根岸クロスカップリング及び鈴木・宮浦クロスカップリングにより、3つのユニットからFを合成しています。
またここでもシリル基→ヨウ素への変換を行っていますが、
・HFIPに対する溶解性アップのため、水酸基の脱保護が先に必要
・酢酸を添加することで、副反応のiodoetherificationの抑制に成功
と検討が必要だったと述べられています。
~メタセシスとアルキンの変換
両反応とも、Fürstner先生が精力的に研究されているもので、その成果を発揮されています。
1.アルキンメタセシス
アルキンでのメタセシス反応にて、シラノールリガンドを添加することで
反応性及び官能基許容性が飛躍的に向上するそうです。
(詳細についてはまた別の記事にて紹介したいと思います。
気になる方は以下もご参照ください。)
" “Canopy Catalysts” for Alkyne Metathesis: Molybdenum Alkylidyne Complexes with a Tripodal Ligand Framework "
J. Am. Chem. Soc. 2020,14,11279
またここでエナンチオマーの分離もできるそうです。
2.trans-Hydrostannation
プロパルギルアルコールに対して、ロジウム触媒存在下スズヒドリドを
作用させることで、trans のアルケニルスズへと変換しています。
このヒドロメタル化ではスズの他に Si や Ge も可能であり、また trans- や
gem- の水素化もできるということで、有用な反応です。
詳細は以下もご参照ください。
"Research Report 2017-2019"
URL:https://www.kofo.mpg.de/en/research/organometallic-chemistry
上記2反応、アルキンメタセシス → trans-Hydrometalation によりFürstner先生は様々な天然物を全合成されています。
~天然物への変換
アルケニルスズ G 及び 同様に調製した立体化学の異なる H より、増炭と酸化段階の調整を行い3つの天然物の全合成を達成しています。18位の酸化段階を選択した合成が可能となっています。
以上、Fürstner先生によるCasbane類の全合成でした。